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「裁判」の傍聴

 裁判の傍聴

 教科書という書物から学ぶことも大切だが、「世間という書物」から学ぶことはもっと大切である。そのことを実践するために、3年生を対象に大阪地方裁判所に傍聴に行く企画をしたところ、すでに関西大学法学部などに進学が決まっている生徒10名が参加したいと申し出てくれた。
 平成22年1月28日(木)、12時半に裁判所前に現地集合するよう生徒に指示する一方、私自身はどの法廷を傍聴するかを下見するために少し早めに出かけた。大阪地裁にはたくさんの法廷がある。生徒が興味を持ちそうな事件で、できれば新件で裁判の流れがわかるものを見せてやりたい。各階を見て回った後、605号法廷を傍聴することに決めた。廊下で開廷を待っている間に、ケータイの電源を切っておくことや、一切のカメラ撮影が禁止されていることなど、傍聴にあたって守るべき注意事項を伝えた。法廷は1時10分に始まり、午後5時まで3件の裁判が予定されていた。
 1件目の法廷はロシア人女性の覚醒剤取締法違反事件で、前回に続いて証拠調べが行われていた。尿検査の結果、フェニル・メチル・アミノプロパンが検出され、自宅のタンスからブツが出てきたにもかかわらず、本人は「私は覚醒剤はやっていない」と主張し、警察での取り調べに違法性がなかったかが詳しく検証されていた。女性検事が提出する証拠、それに反論する弁護人、あるいは裁判官の発言がロシア語の通訳を介してやり取りされる。専門用語が早口で飛び交うのを瞬時に通訳する。半端な語学力ではない。これだけでも生徒にとっては十分刺激的であったと思う。
 2件目は窃盗および暴行事件であった。どんな凶悪な事件かと思ったら、コンビニから105円のカロリーメイト1個を万引きして、犯人を捕まえようと追いかけてきた店員の足を蹴ったという事件であった。事件を起こしたのは住所不定で無職、若い頃から刑務所を十数回出たり入ったりしている60代後半の男性であった。空腹だったので万引きをしたが、高い品物だとお店に悪いと思って安いものを「軽い気持ちで」盗んだということだった。
 3件目は詐欺事件であった。土地の売買を巡って手付け金100万円をだまし取ったという事件である。被告人の親が証人として出廷し、今後の更正の手助けをすることを誓っていた。事実関係をすべて認めたので、今日の1回の公判で人定質問から、起訴状朗読、罪状認否、証拠調べ、証人喚問、論告求刑まですべてを見ることができた。ラッキーだった。検察の求刑は懲役2年であった。これに対して弁護側は、被告人が初犯であることや深く反省していることを考慮して執行猶予をつけてほしいと主張していた。次回、判決が申し渡される。
  裁判員制度が始まったせいか、ほかの学校の高校生も傍聴に来ていた。また、以前なら傍聴席はがらがらだったのに、今日は一般の人の傍聴も目立った。これも裁判員制度の影響かもしれない。「現実こそ最良の教科書である」というのが私の口癖であるが、裁判所は社会の問題点の縮図である。生徒は熱心にメモをとりながら聴いていた。参加したある生徒は「覚醒剤というとずいぶん怖いイメージがあったが、普通の人が覚醒剤に手を出し、裁判になっているので驚いた。ロシア語の通訳の人がすごいと思った」という感想を述べていた。日頃の授業では学べないことを学ぶことができたのではないかと思う。

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